インドコブラ Naja naja


和名:インドコブラ
学名:Naja naja
分布:インド、パキスタン、スリランカ、バングラディッシュ、ネパール、ブータン
環境:森林、平原、農耕地、岩場、湿地帯、都市部
活動時間帯:昼行性
食性:ジェネラリスト 小型げっ歯類、鳥類、爬虫類、両生類など
全長:1-1.5m程度
毒性:強 神経毒 出血毒

インドを代表するコブラ。フードコブラ属Najaの模式種である。




Najaはサンスクリット語でヘビを表すナーガに由来する。
ナーガは現在、インド神話に起源を持つ、蛇神としても知られている。
その他、インド国内では様々なモチーフとなっている。




フードと背面の眼鏡模様が特徴的なコブラである。




この眼鏡模様は通常の移動時でも目立つ。
体色は変異に富み、灰色、黒、黄褐色、茶色などが知られており、筆者が撮影したのは黄褐色が強い個体である。

森林、平原から都市部まで様々な環境で出現するとされるが、
主な生息域は標高2,000m以下であり、極端な砂漠地帯には生息していない。




インドではインドアマガサヘビ、ラッセルクサリヘビ、ノコギリヘビと並び、四大毒蛇と称されることもある。

撮影した所感としては、臆病ゆえに外敵に対して強く反応するという印象であった。
咬む、威嚇するよりも先に物陰に逃げようとしたためである。




鱗はキングコブラ等と比べるとはるかに滑らかな手触りである。





インドコブラとの出会い


初めてインドに訪れた私は困惑していた。
ヘビを保護する環境団体やヘビ捕獲を専門とする地元警察に手当たり次第突撃して
蛇探しに同行させてもらえないか交渉しまくった。




3日間で優に数百名以上と会話したところようやく糸口が見つかった。




居住区に現れたコブラを捕獲し、森林保護区に逃がす仕事をしているボスを知っているという人物が現れたのである。
私はすぐにボスのもとを訪れ頼み込んだが、コブラを扱う危険な仕事であり、遊びで行っているわけではないと断られてしまった。

しかし、ここで食い下がらずどうする。
キングコブラヨロイハブをハンドリングしている写真を見せたところ、
経験十分と判断され、なんとか働かせてもらえることになった。

就労ビザを取得していないためボランティアを申し出たところ、代わりに食事と住居を提供していただいた。

ボスの事務所でボスや助手らとそれぞれのヘビ捕獲話を聞きながら
電話が来るとすぐ現場へ赴き、ヘビを捕獲し森林保護区に移送しリリースする。
3交代制などは無く、全員が24時間体制で待機し、電話を待つためなかなかハードである。

学校やホテルからの通報があると子供やお年寄りが既に被害に遭っている可能性もあるため
楽しくも緊張した現場である。




チャイなど飲みながら談笑していると最初の電話がかかってきた。
なんといきなりコブラだという。
現場にバイクで直行することになった!







捕獲時の詳細は季刊誌「蛇と人」に譲るが、何とか学校に現れたコブラを捕獲して森林保護区に逃がすことが出来た。




そしてリリースする際に森林保護区内で撮影する許可を頂いたのだが、すぐに次の電話がかかってきてしまった。
「依頼料以上のお金を払うからせめて10分だけ延長させてくれ」と頼んだが「子供たちが危険に晒されているかもしれない」とキッパリと断られてしまった。
それはそうなのだ。今の私はヘビ愛好家ではなく、人命を預かるスネークハンターなのだから。

実際、同定を終えていないヘビに興味本位から近づこうとする幼子が、親や家族から平手打ちされ泣いている現場を何度も目撃した。
インドではそれだけ居住区とヘビが密接に繋がっており、危険が多いということなのだろう。

ちなみに次の現場は無毒のトリンケットラットスネークであった。
ヘビが約300種棲息しているインドでは一般の方による同定は困難と予想されるためコブラでないことに目くじらを立てることは出来ない。
なにより事故が無くてよかったと心の底から安堵した。





ボスに「休暇は何をしているの?」と聞くと、いつもの都市部ではなく大自然でヘビを探しているのだという。
てっきり職業でヘビを扱っているだけだと考えていたためこれには驚いた。ボスは真にヘビ愛好家なのだ。




半年後にインド南部の熱帯雨林でヘビ探しをするからお前も来いと誘われた。
言葉はほとんど通じなかったが、ヘビを通じた交流が確かにそこにあった。
もちろん次の遠征には喜んで参加する予定である。




さて次はどのようなヘビとの出会いが待っているのだろうか。





記事執筆・撮影者
外村康一郎 Tonomura Koichiro

1994年12月28日 兵庫県加古郡出身
日本爬虫両棲類学会、日本土壌動物学会所属。

幼少期よりヘビなどの爬虫類を愛好。2015年ボルネオ旅行を皮切りに、世界中で爬虫類の撮影を行う。
2017年観賞魚、爬虫類用品メーカーのジェックス株式会社へ入社、2018年より同社爬虫類部門EXO TERRAの商品開発担当、2021年退職。

2021年7月18日放送のNHK「サイエンスZERO“やんばる”世界遺産へ 奇跡の森になったワケ」ではホンハブの撮影に協力。
NHK取材陣と共に、かつて米軍の管理下にあった返還地の森で案内を行う。
「日本ヘビ類大全」「所さんの目がテン!公式ブック 生物多様性がわかる かがくの里」ヘビ写真提供ほか、
「ワニ大図鑑: 分類・進化・生態・法律・飼育について解説」へのイリエワニ写真提供など、爬虫類写真家としても活躍中。

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