和名:ツマベニアオマタハリヘビ
学名:Calliophis bivirgatus flaviceps
分布:インドネシア(スマトラ島)、マレーシア、タイ、シンガポール、ミャンマー
環境:森林、低地、山地、農耕地
活動時間帯:夜行性とされるが、昼間の活動例もあり
食性:ヘビ食性が強い
全長:1-1.5m程度
毒性:強 神経毒 カリオトキシン
ブルーコーラルスネークとも呼ばれる、マタハリヘビの仲間の中でも特に目を惹く紅色と青色を呈する美麗種。
3亜種が知られるが、本亜種が最も派手な色彩を呈する。
背は単なる濃紺ではなく、角度により色が変化する構造色であり特に美しい。
本属の中では大型化し、最大で180cmにも達した記録もある。
また体の1/4にも及ぶ毒腺をそなえており、毒の産出量は多いと言える。
本種はカリオトキシンというCalliophis カリオフィスにちなんだ名前の特有の毒をそなえている。
この毒は即効性が高く、注入された場合、筋肉の痙攣や麻痺が発生することで知られる。
こうした作用の毒は通常、サソリやクモ、イソギンチャクの様な無脊椎動物で広く知られるが、
脊椎動物がこのような毒をそなえるケースは珍しい。
本種は、他の毒蛇を含むヘビを好んで捕食する。
自らが咬まれるより先に捕食対象の動きを制止させ、なおかつ逃げられないようにする必要があるため、
このような毒を獲得したものと考えられている。
無脊椎動物と脊椎動物の毒が機能的に収斂した事例と言えよう。
佐藤武彦氏の写真集「密怪生命」やA Naturalist’s Guide to the Snakes of Southeast Asiaの3rdエディションの表紙にも採用されており、
筆者はかねてより観察してみたかったヘビであった。
Calliophis bivirgatusは3つの亜種が知られており、それぞれ模様や色彩が異なる。
C. b. bivirgatus – インドネシア
C. b. flaviceps – インドネシア(スマトラ島)、マレーシア、タイ、シンガポール、ミャンマー
C. b. tetrataenia – ボルネオ島
この印象的な色彩は擬態のモデルになっているとも考えられ、
ベニアマガサ Bungarus flaviceps ではミューラー型擬態であることが示唆されているほか、
ズアカヒメヘビ Calamaria schlegeli はベイツ型擬態と考えられる。
記事執筆・撮影者
外村康一郎 Tonomura Koichiro
1994年12月28日 兵庫県加古郡出身
日本爬虫両棲類学会、日本土壌動物学会所属。
幼少期よりヘビなどの爬虫類を愛好。2015年ボルネオ旅行を皮切りに、世界中で爬虫類の撮影を行う。
2017年観賞魚、爬虫類用品メーカーのジェックス株式会社へ入社、2018年より同社爬虫類部門EXO TERRAの商品開発担当、2021年退職。
2021年7月18日放送のNHK「サイエンスZERO“やんばる”世界遺産へ 奇跡の森になったワケ」ではホンハブの撮影に協力。
NHK取材陣と共に、かつて米軍の管理下にあった返還地の森で案内を行う。
「日本ヘビ類大全」「所さんの目がテン!公式ブック 生物多様性がわかる かがくの里」ヘビ写真提供ほか、
「ワニ大図鑑: 分類・進化・生態・法律・飼育について解説」へのイリエワニ写真提供など、爬虫類写真家としても活躍中。
参考文献
Daryl C. Yang,Jennifer R. Deuis,Daniel Dashevsky, James Dobson, Timothy N. W. Jackson, Andreas Brust, Bing Xie ORCID,Ivan Koludarov, Jordan Debono, Iwan Hendrikx, Wayne C. Hodgson, Peter Josh, Amanda Nouwens, Gregory J. Baillie, Timothy J. C. Bruxner, Paul F. Alewood, Kelvin Kok Peng Lim, Nathaniel Frank, Irina Vetter and Bryan G. Fry. The Snake with the Scorpion’s Sting: Novel Three-Finger Toxin Sodium Channel Activators from the Venom of the Long-Glanded Blue Coral Snake (Calliophis bivirgatus)