咬みつかれると5mgもの毒が注入されうるため、咬まれればひとたまりもない。
2018年に発表された論文では2008年~2016年に咬まれた68人のうち5人が亡くなったとされる。
血清治療が発達した近年でも、咬まれた人の死亡率は7%以上にものぼるのである。
アマガサヘビは攻撃性は高くなく凶暴性もないとされるが、これは遠巻きに見ている場合の話である。
観察しようと近づく際に少しでも刺激を与えると、一転して攻撃的になり
とんでもない速度で咬みついてくることがあるため注意が必要だ。
最上部の写真はマレーシア半島部のペラ州南部にて撮影、それ以外はペナン州ペナン島にて撮影した。
筆者の経験とペナン島在住のヘビ愛好家によると、傾向として半島部では帯部分に黄色が入り、ペナン島では白黒であることが多い。
また、シロオビアマガサに似たヘビとしてオオカミヘビが挙げられる。
シロオビアマガサは尾下板が単一であるため識別できるのだが、この恐ろしい毒ヘビの尾の下側を観察することは難しいだろう。
簡易的な識別としては本種は背面の正中線上の体鱗が大きく、六角形状ということで見分けることができる。
※なお電脳蛇類ではアマガサヘビ、及びオオカミヘビを扱う事を推奨しない。
一見白黒のヘビだが、子細に鱗を観察すると真珠の様な光沢のある白と日が落ちた直後の空のような深い蒼に染まっている。
食性はヘビ食性が強いが、他の爬虫類等やカエルも捕食する。
筆者はマングローブ林にて本種がツツミズヘビ Gerarda prevostianaを捕食している様子を観察したことがある。
東南アジアに広く分布する上に様々な環境に生息するため、何度か旅に出れば見かけることもあるだろう。
筆者は川沿いやマングローブ林で発見したことがあるが、地元では民家付近でも見られる身近なヘビといえるだろう。
毒の恐ろしさ、顔のかわいらしさ、迫力のある大きな鱗、白黒の帯模様に隠された煌めき。
どれをとっても素晴らしいヘビである!
2024年正月明け、私は西オーストラリア州でタイガースネークの撮影を終えて、トランジット先のクアラルンプールに降り立った。
この時の私は2週間以上にわたる撮影旅で疲労が蓄積していたのだろう、レンタカーを借りた駐車場内で後輪を縁石に当てる事故を起こしてしまった。
「おいおい、外に出る前にこれかよ……。」
保険には入っていたのだが、タイヤとホイールは適用外である上、警察署に行く必要が出来てしまった。
人生初、海外で自分の運転での事故である。しかもよりによって1人で行動しているときに。
事故証明書を入手しに警察署に出頭して、「こんな事故でいちいち来なくても……」という警察のリアクションと
レンタカー会社の方からの慰めはあったものの、運転の自信をすっかり喪失した私は自分で運転する選択肢を排除した。
しかしマレーシア、車社会である。車なくしてヘビは無し。マレーシアの友人に手当たり次第に電話をかけ救援を求めた。
すると、もっとも最近知り合った友人のチュン氏と連絡が繋がって、
「今夜のうちにペナン州まで来れるなら、フィールドに一緒に行こう。」と温かい対応を頂いたのだった。
ということで空港からクアラルンプール中心街まで地下鉄で移動し、ターミナルバスステーションからペナンまでの高速バスに乗り込んだ。
移動距離は約350km、7-8時間は経過しただろうか。
自分で運転するより時間がかかったが全席マッサージチェアのバスでゆっくりと眠ることが出来た。
実はチュン氏とはオンライン上でのやり取りしか行ったことがなく、初めて会うためお互いドキドキであった。
日が暮れかかるころペナン島のバスターミナルまで彼は迎えに来てくれた。
ペナン島の食事は美味い。食事中にこれまでの旅やお互いが見たヘビの話に花を咲かせる。
そして食事を終えると彼はおもむろに「ブンガルス……」とつぶやいた。
今日はBungarus アマガサヘビが活動しそうな気候だというのだ。
暖かで風もなく、さらにこれからフィールドに向かえばマングローブ林が干潮でウミワタリやミズヘビなどが陸近くに集中する。
これを狙いにアマガサヘビが現れるはずだという。
毒蛇を愛好するものは一度はアマガサヘビに憧れるものだ。
期待に胸を膨らませて、私はチュン氏の車に乗り込んだのだった。
この後の素晴らしい出会い時は、上記記事の通りである。
記事執筆・撮影者
外村康一郎 Tonomura Koichiro
1994年12月28日 兵庫県加古郡出身
日本爬虫両棲類学会、日本土壌動物学会所属。
幼少期よりヘビなどの爬虫類を愛好。2015年ボルネオ旅行を皮切りに、世界中で爬虫類の撮影を行う。
2017年観賞魚、爬虫類用品メーカーのジェックス株式会社へ入社、2018年より同社爬虫類部門EXO TERRAの商品開発担当、2021年退職。
2021年7月18日放送のNHK「サイエンスZERO“やんばる”世界遺産へ 奇跡の森になったワケ」ではホンハブの撮影に協力。
NHK取材陣と共に、かつて米軍の管理下にあった返還地の森で案内を行う。
「日本ヘビ類大全」「所さんの目がテン!公式ブック 生物多様性がわかる かがくの里」ヘビ写真提供ほか、
「ワニ大図鑑: 分類・進化・生態・法律・飼育について解説」へのイリエワニ写真提供など、爬虫類写真家としても活躍中。
種解説監修者
Torok
参考文献
Habermehl, G. (2012). Venomous animals and their toxins. Springer Science & Business Media.
Poyarkov, N. A., Van Nguyen, T., Popov, E. S., Geissler, P., Pawangkhanant, P., Neang, T., … & Orlov, N. L. (2023). Recent progress in taxonomic studies, biogeographic analysis, and revised checklist of reptiles in Indochina. Russian Journal of Herpetology, 30(5), 255-476.
田原義太慶, 柴田弘紀, 友永達也 2020 毒ヘビ全書
Tongpoo, A., Sriapha, C., Pradoo, A., Udomsubpayakul, U., Srisuma, S., Wananukul, W., & Trakulsrichai, S. (2018). Krait envenomation in Thailand. Therapeutics and clinical risk management, 711-1717.