和名:ヨロイハブ
学名:Tropidolaemus wagleri
分布:マレーシア、タイ、シンガポール、インドネシア:スマトラ島、ベトナム南部の一部地域
環境:標高400mまでの森林、樹上性
活動時間帯:夜行性
食性:ジェネラリスト 鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類
全長:0.5-1m
毒性:中 神経毒、出血毒
鎧のような鱗の配列から名付けられたハブ。本種はヨロイハブ属の模式種である。
マレーシアのペナン島にある蛇寺で信仰の対象とされている所からテンプルピットバイパーとも呼ばれている。
種小名はドイツ人の動物学者ワグラー氏への献名である。
性的二型が顕著であり、オスは小型で通常75cm以下、メスは1m程度となる。
色彩は、オスは幼体とほとんど同一であるが、
メスは1枚目の写真のように黒字に黄緑~淡青色のバンドが入る姿に変貌する。
目と鼻の間に1対のピット器官をそなえる。わずか0.003℃ の温度差を検出することが可能である。
ヘビ愛好家にとっては有名なペナン島の蛇寺である。
この寺は多くの病人を救い医療、薬学に精通したとされる清水祖師爺(写真中央)を祀って建立された。
しかしペナン島はヨロイハブが多数生息しており、寺院内には多くの個体が侵入することとなる。
当寺の僧侶によると参拝者はヘビに対して注意を払っていたことに加え、
ヨロイハブが夜行性で、性質が大人しいヘビである事が幸いし、長年にわたり誰一人として咬まれなかったと言われる。
そしてペナン島の人々はヨロイハブが神聖な力の影響を受け人を襲わないと信じ、寺院内部に蛇が生息する奇妙な光景が生まれたのである。
……とはいえ、寺院内にはヨロイハブが展示されている他、本当に侵入したと思われるような場所にもヨロイハブがいるため注意が必要である。
寺院内に集められているのはほぼ全てメスであるが、理由はわからなかった。語学力を磨きリベンジしたい。
旧正月には蛇踊りという祭事もあるそうで、ヨロイハブを模した獅子舞のようなものが随所に配置されていた。
中にはデフォルメされ、かわいらいいヨロイハブの姿もある。
明らかにいてはならないであろう場所にもいるため、壁からは常に1m以上離れて参拝することを推奨する。
窓枠や地面、ドア、額縁の上など至る所に存在する。
マレーシアのヘビ愛好家からは本寺は批判的に紹介されたことがある。
というのも毒牙を抜かれたヨロイハブとの触れ合いなど消費的にヘビを扱うことがあったようだ。
筆者が訪れた際はそのような個体はいなかったため、偶然行われていなかったか、
コロナ情勢で観光客が減少していく途中で撤廃された可能性がある。
最後は全てのヘビが平穏に暮らせるよう祈りをささげた。
もしかすると効果はテキメンかもしれない。
この翌日にキングコブラ、翌月にはインドコブラ、パフアダーを観察することが出来たためである。
学生時代、私はマレーシア19マイル村のバス停に腰を下ろしていた。
ここでは座っているだけで多種多様な奇蟲やヘビが運ばれてくる。
(運ばれてくる種の中にはマレーシア政府が採集を禁止している種も多く、またヘビの多くは保護種であり一般の方の生物の購入、持ち出しは難しいことに注意)
その中に、ペットボトルのキャップより少し大きい程度の幼蛇が混ざっていた。
ヘビに対する知識、興味が薄かった私は変な模様のアオハブがいるのだなぁ、とスルーしてしまっていた。
人生初のヨロイハブはこんなものである涙 (知識や興味がいかに人の行動を変えるか……)
それから8年ほどの歳月を経て、マレーシアのペナン島に訪れた際、ようやくヨロイハブに会うことが出来た!
ひっそりと樹上に佇んでおり、1匹見つけると周囲には数匹潜んでいることが多かった。
低地の森林であれば、比較的どこにでも現れるのだが、筆者の観察では目線の高さにいることは少なく、基本的には3m以上の木の高い位置に潜んでいることが多い。
蛇寺を見た後は野生のヨロイハブ探しにもぜひ挑戦して頂きたい!
記事執筆・撮影者
外村康一郎 Tonomura Koichiro
1994年12月28日 兵庫県加古郡出身
日本爬虫両棲類学会、日本土壌動物学会所属。
幼少期よりヘビなどの爬虫類を愛好。2015年ボルネオ旅行を皮切りに、世界中で爬虫類の撮影を行う。
2017年観賞魚、爬虫類用品メーカーのジェックス株式会社へ入社、2018年より同社爬虫類部門EXO TERRAの商品開発担当、2021年退職。
2021年7月18日放送のNHK「サイエンスZERO“やんばる”世界遺産へ 奇跡の森になったワケ」ではホンハブの撮影に協力。
NHK取材陣と共に、かつて米軍の管理下にあった返還地の森で案内を行う。
「日本ヘビ類大全」「所さんの目がテン!公式ブック 生物多様性がわかる かがくの里」ヘビ写真提供ほか、
「ワニ大図鑑: 分類・進化・生態・法律・飼育について解説」へのイリエワニ写真提供など、爬虫類写真家としても活躍中。