和名:パフアダー
学名:Bitis arietans
分布:サハラ以南のアフリカの内、砂漠、熱帯雨林を除く地域、アラビア半島南西部
環境:草原、森林、岩石地帯
活動時間帯:夜行性
食性:ジェネラリスト 哺乳類、鳥類、両生類、
全長:1-1.5m程度
毒性:強 出血毒 神経毒
アフリカでもっとも人を殺害しているヘビとも言われている毒蛇。
一説によると、本種による対人、対家畜被害は、アフリカに生息する他の全てのヘビの被害合計よりも多いとされる。
アフリカでは、ヘビ咬傷による死者は年間32,000人にのぼり、多くの犠牲者に後遺症や障害が残ると推定されている。
本種の他、ノコギリヘビの一種Echis ocellatusやNaja nigricollisが死者の大半を占めている。
パフは息を表し、本種の噴気音を示している。
種小名は激しく攻撃するという意味である。攻撃的な個体も多いようだ。
本個体はナイロビで撮影した。
地元の住民によると、ナイロビのように標高の高い地域(1600m以上)では太陽の熱を効率よく吸収するため黒っぽい個体が多いという。
反対に、モンバサなど港町付近に行けば、一般的に知られる茶色地の個体を観察することが出来るそうだ。
こちらはモンバサの個体である。
他にも鮮やかな黄色と黒の個体も存在する。
本種は芋虫のような動きで移動することが知られている。
なお素早く移動するときは通常のヘビのように蛇行も可能で、これを知らなかった筆者はナイロビで咬まれかけた。
本当に間一髪であった。観察する際は、絶対に正面に立たないことを強調しておきたい。
舌や尾の先端を用いたルアーリングでも知られる。
尻尾と舌の両方をルアーとして使用することが知られているヘビは現在パフアダーのみである。
この行動は爬虫類研究者のグラウダス氏とアレクサンダー氏によって確認された。
両名は86匹のパフアダーを捕獲、彼らの体に無線送信機を埋め込み、ディノケン動物保護区内での彼らの動きを追跡。
リモートカメラで撮影したところ疑似餌として用いた狩りが確認されたという。
興味深いことに舌を疑似餌として利用するのはカエルなどの両生類がいるときに限定される。
これによりパフアダーが周囲を観察し獲物を識別していることが示唆されている。
舌の動きはミミズなど、両生類がエサとして好む容姿や動きを再現しやすいため、このような行動の差が生まれると考えられる。
ただ例外的に、セネガルガエル Kassina senegalensisが現れた際はルアーリングを行わなかった。
セネガルガエルは皮膚からカッシニンと呼ばれる毒素を放出することで知られ、捕食すると痛みを伴う炎症が発生すると考えられている。
このようにパフアダーは危険なカエルを見分ける高い認知能力を持っている可能性があるのだ。
記事執筆・撮影者
外村康一郎 Tonomura Koichiro
1994年12月28日 兵庫県加古郡出身
日本爬虫両棲類学会、日本土壌動物学会所属。
幼少期よりヘビなどの爬虫類を愛好。2015年ボルネオ旅行を皮切りに、世界中で爬虫類の撮影を行う。
2017年観賞魚、爬虫類用品メーカーのジェックス株式会社へ入社、2018年より同社爬虫類部門EXO TERRAの商品開発担当、2021年退職。
2021年7月18日放送のNHK「サイエンスZERO“やんばる”世界遺産へ 奇跡の森になったワケ」ではホンハブの撮影に協力。
NHK取材陣と共に、かつて米軍の管理下にあった返還地の森で案内を行う。
「日本ヘビ類大全」「所さんの目がテン!公式ブック 生物多様性がわかる かがくの里」ヘビ写真提供ほか、
「ワニ大図鑑: 分類・進化・生態・法律・飼育について解説」へのイリエワニ写真提供など、爬虫類写真家としても活躍中。
参考文献
Spawls S, Howell K, Drewes R, Ashe J. 2004. A Field Guide to the Reptiles Of East Africa. A & C Black Publishers Ltd., London. 543 pp.
Severe Puff Adder (Bitis arietans) Envenomation with Coagulopathy
Eric J. Lavonas,Christian A. Tomaszewski,Marsha D. Ford,Anna M. Rouse &William P. Kerns II
Bitis arietans Snake Venom Induces an Inflammatory Response Which Is Partially Dependent on Lipid Mediators
by Angela Alice Amadeu MegaleORCID,Fernanda Calheta Portaro *ORCID andWilmar Dias Da Silva
Intra-specific variation in venom of the African Puff Adder (Bitis arietans): Differential expression and activity of snake venom metalloproteinases (SVMPs)
Author links open overlay panelRachel B. Currier a, Robert A. Harrison a, Paul D. Rowley a, Gavin D. Laing b, Simon C. Wagstaff a
X. Glaudas & G. J. Alexander A lure at both ends: aggressive visual mimicry signals and prey-specific luring behaviour in an ambush-foraging snake