キングコブラ Ophiophagus属

 

模式種:キングコブラ Ophiophagus hannah
復活:スンダキングコブラ Ophiophagus bungarus
新種:西ガーツキングコブラ Ophiophagus kaalinga
新種:ルソンキングコブラ Ophiophagus salvatana
全長:3-5m
分布:東アジア、東南アジア、南アジア
環境:草原、森林、マングローブ、プランテーション
活動時間帯:昼行性
食性:ヘビ食性が強い
毒性:強

 







 

※本記事の写真は表記がない限り全てスンダキングコブラ Ophiophagus bungarus である。


長年1属1種、世界最長の毒蛇とされてきたが、2024年10月16日にDasらの研究によりOphiophagus bungarusが復活、
Ophiophagus kaalingaOphiophagus salvatana の2種が新種として記載され、合計4種となった。

3mを超えることも決して珍しくなく、鎌首をもたげると、成人男性の胸元、首元に到達する。
広く大蛇として知られるボア、パイソンを除き、現生種では唯一5m以上に達するヘビ類である。

 

 

 

 

 

属名はOphio=ヘビ phagus=食べる に由来しており、ヘビを捕食することで知られる。
キングコブラという名前も、他のヘビを捕食することからヘビの王と考えられたことに由来する。
また、ヘビに加えてオオトカゲも捕食することで知られる。

 

 

全4種:種小名の由来
◆キングコブラ Ophiophagus hannah
模試種の種小名hannahはギリシャ神話の樹木に住む妖精の名前で、樹上性であることにちなんだ名とされる。ただし実際には地表性のヘビである。


◆スンダキングコブラ Ophiophagus bungarus
おそらく一部のアマガサヘビ Bungarus 属の形態学的特徴(二分しない腹板を部分的に持つ)または生態的な特徴(ヘビを好み捕食する)のいずれかに由来する。


◆ニシガーツキングコブラ Ophiophagus kaalinga
インドのカルナータカ州のカンナダ語で本種の色彩的特徴である「暗い」「黒い」を意味する”kali”と、ヒンドゥー教のシヴァ神にちなんだ”Kaalinga Havu”の省略形に由来する。


◆ルソンキングコブラ Ophiophagus salvatana
タガログ語でキングコブラを意味するサルヴァタナに由来する。


移動は素早く、観察には危険が伴う。


一度獲物に咬みつくと毒の注入が終わるまでなかなか離さないとされる。
筆者がキングコブラの採毒について取材を行った際は、
地元警察が首を掴みペットボトルに咬みつかせると、30秒以上離さずに咬みついていた。

咬まれた際は乾燥重量で200mg以上の毒液を注入することもあるとされるが、納得の行動であった。
毒液の出が悪くなり、警察がペットボトルから引きはがそうとしても咬むのをやめなかったことから、
本種に咬まれた場合は大事故に発展する可能性が高そうだ。

 


本種は立ち上がった状態で移動をすることが出来る。
体の1/3近くを支えなしで維持することが出来るうえ、そのままこちらに迫ってくるのである。

これまで数百匹の毒蛇を撮影してきたが、安全圏がない撮影は初めてのことであり、
他のどの蛇を撮影しているときとも異なる、じっとりと張りつくような嫌な恐怖があった。

また視力が良く、こちらの細かな動作を子細に観察し、機を伺いながら逃げる、近づく、咬むという動きを選択しているように感じた。
具体的には、私が体や頭を動かさず、目線だけを動かした瞬間に逃げようとした……(と感じた?)瞬間が何度かあった。


手触りはザラザラとしている。
逆撫ですると強い引っ掛かりを感じるほどにエッジが鋭く立っている。

 

一方で、腹板は滑らかな質感である。
フードはインドコブラなどNaja属のヘビと比べると相対的な幅の広がりは小さい。

 

マレーシア、パハン州で観察した個体の舌は紫色を呈していた。

 

フードの背面側に目立った模様はなく、これもインドコブラ等、多くのNaja属との違いを感じさせられる。

ヘビの中で唯一巣作りをして卵を保護することで知られる。メスは落ち葉を積み上げて巣を作り、その中に卵を産んで二ヶ月以上守るのである。
卵は7-50個程度産むとされる。 

 

 

キングコブラの捕獲業務

キングコブラの生息域では咬傷によって人命にかかわる被害が生じる可能性がある。
そのためスネークレスキューという民間組織、または地元警察が捕獲業務を行うことがある。

また、いくつかの国ではキングコブラは保護動物であり、殺傷が禁じられている。
しかしヘビを扱ったことがない者がキングコブラを扱うことは極めて困難であるため、
専門家が捕獲、移送、そして保護区へのリリースを行うのだ。

 

スンダキングコブラがよく出現するマレーシア、パハン州のある村では小型の個体がワンハンド、大型の個体はツーハンドと呼ばれていた。
これは成人男性が片手で首を持てるか、両手が必要かを表している。
マレーシア警察の中でヘビを扱う部署では、ツーハンドを扱いきって一人前とする場合もあるようだ。
筆者の取材では概ね4m後半のサイズとなってくるとツーハンドと呼ばれるようだ。

私は4m11cmまでの個体しか扱ったことがないため、半人前と言ったところだろうか。

 


 

キングコブラは魅力的なヘビであるが、1人で遭遇した際は撮影にとどめておくべきだろう。
ゾウすら殺しうる毒蛇がこちらを観察し、素早く動くのである。

また観察には十分な距離をとる事を推奨したい。
1.5m程度の距離はわずか1秒で詰められてしまい全く余裕がないため、常に全長以上の距離はとっておきたい。
撮影する際は右目でファインダーを覗き、左目でコブラを直接見る両眼視撮影を行い決してキングコブラから目を離さないこと。

人生最後の幸運がキングコブラとの出会いとならないよう、十分に注意されたし。

 

 

記事執筆・撮影者
外村康一郎 Tonomura Koichiro

1994年12月28日 兵庫県加古郡出身
生物探検家。日本爬虫両棲類学会、日本土壌動物学会所属。

幼少期よりヘビなどの爬虫類を愛好。2015年ボルネオ旅行を皮切りに、世界中で爬虫類の撮影を行う。
2017年観賞魚、爬虫類用品メーカーのジェックス株式会社へ入社、2018年より同社爬虫類部門EXO TERRAの商品開発担当、2021年退職。

2021年7月18日放送のNHK「サイエンスZERO“やんばる”世界遺産へ 奇跡の森になったワケ」ではホンハブの撮影に協力。
NHK取材陣と共に、かつて米軍の管理下にあった返還地の森で案内を行う。
「日本ヘビ類大全」「所さんの目がテン!公式ブック 生物多様性がわかる かがくの里」ヘビ写真提供ほか、
「ワニ大図鑑: 分類・進化・生態・法律・飼育について解説」へのイリエワニ写真提供など、爬虫類写真家としても活躍中。

 

 

 

参考文献

Jones, M. D., Crane, M. S., Silva, I. M., Artchawakom, T., Waengsothorn, S., Suwanwaree, P., … & Goode, M. (2020). Supposed snake specialist consumes monitor lizards. Ecology, 101(10), 1-4.)

Dolia, J., Das, A., & Kelkar, N. (2023). House-warming: Wild king cobra nests have thermal regimes that positively affect hatching success and hatchling size. Journal of Thermal Biology, 112, 103468.

Shankar, P. G., Swamy, P., Williams, R. C., Ganesh, S. R., Moss, M., Höglund, J., … & Dutta, S. K. (2021). King or royal family? Testing for species boundaries in the King Cobra, Ophiophagus hannah (Cantor, 1836), using morphology and multilocus DNA analyses. Molecular phylogenetics and evolution, 165, 107300.

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